#07【手引き】オートグラフの選別法をマスターして仕入れよう

はじめに

オートグラフを見極める必要性

売れる直筆サインを仕入れるためには,オートグラフ業界における評価基準を把握しなければなりません.これはディーラー(販売業者)だけではなく,一般のコレクターにも当てはまります.店主が亡くなっても,在庫は後継者や同業者の手に行き渡ります.一方,個人の収集家が亡くなっても,家族は遺品の価値を知りません.貴重な財産を費やして集める以上,商品価値があるものを購入したいものです.

日本のプロオートグラフディーラーである,「オートマニア ドットコム」さんや「フェーマス サイン&ポスターズ」さんでは定価販売が行われています.つまり,同じ価格でも商品価値が異なります.これはスーパーで食品を買うとの同じ考えです.同じ値段で買うのならば,状態の良い野菜や魚を選びますよね?私の場合は,賞味期限を見て奥の方から取り出してしまいます.わざわざ,商品価値が低下しているものを買いません.

仕入れ(購入)の極意

直筆サイン(オートグラフ)を購入する際も,「品定め力」を養うことで,掘り出し物と出会うことができます.

ただし,真贋鑑定と同じで,コレクター自身の努力が必要です.プロディーラーは仕入れの基準を公表しないので,解説本や参考書などは存在しません.オートグラフ業界の評価基準を参考に,自身の評価基準を持つことが大切になってきます.

今回は私の専門分野である,直筆サイン入り写真の評価基準をご紹介します.

写真用紙&プリント

用紙のサイズ

日本で直筆サインを集める場合は,「色紙」や「写真集・ポスター」が中心になってくると思います.トレーディングカード(トレカ)やチェキ,サイン入り生写真を集めている場合は,比較的小さな用紙サイズとなります.

海外のマーケット及び「オートマニア ドッドコム」さんや「フェーマス サイン&ポスターズ」さんでは,「8×10インチ」サイズが主力商品をなっています.「8×10インチ」は日本だと,「六切(6つ切り)」として扱われており,用紙の大きさは「203×254mm」です.写真用紙の原紙(大全紙)[20×24インチ・508×610mm] を6つに切り出したサイズのため,「六つ切り」と呼ばれています.

この「8×10inch」のサイズが普及した背景を理解するためには,「ラッシュサイン」という単語を知っておく必要があります.

ラッシュサイン

「ラッシュサイン」とは,出待ちをしたファンがセレブリティにサインを迫ってゲットした物のことを指します.「パパラッチ」という言葉は聞いたことがあると思います.彼らは日本の週刊誌のような存在です.海外にはパパラッチの他に「インパーソンコレクター」という人々が活動しています.「インパーソンコレクター」とは,セレブリティに追いかけ,直筆サインをもらいまくる人たちです.テレビ番組「世界の果てまでイッテQ!」で出川哲朗さんの「パパラッチ出川」というコーナーをご覧頂ければ,その実態がよく分かります.

「ラッシュサイン」が行われる現場は,「戦場」です.今時のワードだと,「カオス」ですね.我先にと,セレブリティに近寄ります.そこに譲り合いなど,存在しません.1人で何枚を書いてもらえる人がいて,その横では1枚も書いてもらえない人が泣いているというシビアな現場です.

なぜ8inchなのか?

その答えは,「距離」です.プレミアなどで出待ちをする場合は,フェンス越しにサインを要求します.最前列を陣取ることが出来れば,セレブリティとは数十センチの距離まで近づくことが可能です.この「近距離」であれば,手を伸ばせばイチコロです.

一方,2列目以降になった人々は隙間から手を伸ばすことになります.その際,小さな写真だとセレブリティまで届きません.ただし,大きすぎる写真だと安定せず,サインが汚くなってしまいます.よって,鞄からさっと出し,台に固定し,手を伸ばせるベストサイズが,「8inch」ということになります.

8inch以外のサイズ

もちろん,8inchサイズ以外のオートグラフも数多く流通しています.今回は小さなサイズと大きなサイズの代表的な例をご紹介します.

小さな写真は,「ファンレター」に適しています.サッカー業界だと「オートグラフカード」などと呼ばれています.小さい写真は大人数で争う,「ラッシュサイン」という場では気が付かれにくく,書く領域が小さいので丁寧に書くのが難しいです.逆に,落ち着いた場所で丁寧に書いて頂く「ファンレターへの返事」という場面において,小さな写真は最強です.ポストカードやハガキ程度のサイズであれば,国際郵便で送ることができ,低コストでオートグラフカードに化けさせることが可能です.

大きな写真は,「フルキャストサイン」に適しています.と言うか,大きな写真でしか「フルキャストサイン」は成立しません.「キャストサイン」とは,1枚の写真に2名以上のサインが書かれている物を意味しています.それの大人数バージョンが,「フルキャストサイン」です.10名以上の人が1枚の写真にサインをする場合,ポスターサイズである必要があります.

プリントの質

写真サイズも重要ですが,写真自体の性質も意識する必要があります.プリント業者「カメラのキタムラ」では,「かんたん写真プリント」,「クリスタルプリント」,「ラスタープリント」という3種類の用紙を選ぶことができます.自宅プリント派だと,富士フイルムの用紙を使い分けることになると思います.

「銀塩」,「インクジェット」,「トナー」など,印刷方式なども気にする必要がありますが,使いたい用紙が決まれば印刷方法は自動的に決まると思うので,そこまで悩む必要はないです.

直筆サインに適した用紙については,別の記事でご紹介します.基本的には,お店で高級プリントをお願いしておけば問題ないです.

購入する場合の注意点

サイン済みの商品を買う場合は,用紙に注意した方が良いです.ネットに落ちている画像を6切りサイズで印刷すると,ボヤボアの緩い写真になってしまします.ですが,購入する際のサンプル画像は非常に小さく,画質の悪さに気が付けません.

前向きに考えると,低画質な写真にサインされたものは一瞬で,後から書かれた物であると判別できるメリットがあります.海外では「RP」と言って,リプリント商品が5から10ドル程度で販売されています.コピー(複製)版の直筆サインを,Yahoo!オークション(ヤフオク!)でオリジナルのように売っている人がいるので注意が必要です.

写真との親和性

魅力的なオートグラフは,様々な偶然によって奇跡的に誕生するものです.初心者の直筆サイン収集家であれば,「写真の見栄え」に食いつくのではないでしょうか?

例えば,風景写真にハリウッドスターのサインが書かれていても,なかなか感動できないと思います.ハリウッドスターであれば劇中の一場面,スポーツ選手であれば試合中の一場面など,セレブリティに合う写真というものが存在します.

私の場合は,女優「エマ・ワトソン」さんのオートグラフを集めるとき,映画「ハリー・ポッター」シリーズと映画「美女と野獣」などを中心に検索を行っています.「エマ・ワトソン」さんは他の映画にも出演されていますが,私にとっては「ハリー・ポッター」での「ハーマイオニー・グレンジャー」が「エマ・ワトソン」さんです.

このように特別な思い入れがある場合,特定の写真のオートグラフを収集していまします.

サインの位置

ここからは少し専門的な部分をご紹介します.先ほど,写真の大きさについて言及しましたが,サインの大きさと場所というのも評価基準の1つになりえます.

色紙のように背景が無地の場合は,中心に大きく書かれたものがベストとなります.しかし,ブロマイドのようにセレブリティが写っている場合は,その余白に書いていくことになり,意味合いが少し変わります.

人物の顔とサインが被らず,適切な位置で大きく丁寧に書かれたものが良い物と評価されます.個人的には,縦方向の写真より,横方向の写真のオートグラフの方が,商品価値が高いと考えています.なぜなら縦方法の大きな写真の場合,下の方に小さく乱暴に書かれている場合が多いからです.後ろの方から手を伸ばして書いてもらったため,下の方にしか書いてもらえません.

同様に,大きな写真にポツンとサインが書かれているのも,低評価の対象です.そのようなサインは,フルサインでない場合が多く,筆跡を読むのにも苦労します.「仕方なく」書かれたオーラを放っていて,他のコレクションと一緒に保管したくないと私は考えています.

サインペン

サインペンの太さ

適切なサイズで書かれたサインの場合,ある程度の「太さ」が必要だと思います.問題なのは,太いペンで小さなサインを書かれた場合です.この場合は,線が重なり合って判別が困難です.

ペンの種類

基本的には「油性ペン」で書いてもらうのがベストとなります.「水性ペン」だと写真自体がはじいてしまい,上手く乾燥しないケースがあるので注意が必要です.同様に,鉛筆やシャープペンシルなども適しません.

サインをお願いする時は,ちゃんとしたペンを渡したいものです.先ほどの「パパラッチ出川」では,マッキーのような黒マジックが乾燥して,インクが出ずサインをしてもらえない場面がありました.日本人の感覚だと,色紙に太黒マジックでサインしてもらうのが一般的ですが,海外だと細いペンで書いてもうらうことが多いです.

文具メーカー「ZEBRA」社の「マッキー」には,「太」と「細」と2種類のペン先があります.太い方でサインをお願いした場合,線の太さが変化するので書き手にも技術が必要となります.ペン先が「線」ではなく,「点」のだとスラスラと書いてもらうことができるので,サイン色紙に慣れている方以外にお願いする場合は「細いペン」を渡しましょう.

ペンの色

日本で直筆サインと言えば,「黒色」が定番です.しかし,Autograph(オートグラフ)では「青色」のペンで書かれる場合があります.

青色ペンの理由

オートグラフに青色ペンが使われるのは,アナログ時代の名残です.モノクロ印刷しか無かった頃や,カラー写真が高価だった頃は,色つきのペンで書かれたことが本物(オリジナル)の証でした.そもそも,契約書などにサイン(シグネチャー)する場合でも同様の理由で青色ペンが使われています.

サイン入り写真に限定すると,「見やすい」というメリットがあります.モノクロ写真や黒背景に,「黒色」で書いてしまうと,背景色と同化してしまいます.「青色」で書くことで,「ここにサインがありますよ」と作品自体が語りかけてきます.

カラーペンが使われない理由

ゴールドやシルバーのペンで書かれるケースは少ないです.そのような派手なインクは,乾きにくく滲む危険性が高いので避けられています.グリーンやピンクのペンが書かれる場合もありますが,基本的には「黒」か「青」です.

速乾性の青色サインペンを使うインパーソンコレクターが多く,そのペンをシェアするもの1つの理由です.最初にセレブリティに青色にペンを渡した場合,そのペンで他の人の分も一気に書かれるのが自然な流れです.自分だけ,ゴールドのペンで書いてもらおうとペンを差し出している間に,相手にしてもらえずセレブリティは過ぎ去ってしまいます.

プロのインパーソンコレクターだど,自分のペンでしか書いてもらわないケースがあります.例えば,フルキャストサインを完成させたい場合です.9人まで綺麗なサインを集めたのに,他の人のペンを使ったせいで10人目のサインがカスカスとなったときには,発狂ものです.そのようなインパーソンコレクターは,セレブリティの自宅などを張り込むます.

文章量

基本的に長いサインは,高評価ポイントです.例えば,エマ・ワトソンさんの場合,「Emma」と書かれた短縮形のサインより,「Emma Watson」と書かれたフルサインの方が希少価値が高く,価格も高くなります.

ただし,売る気が無ければ評価基準が異なります.「メッセージ」の有無によって,家宝レベルが変化するからです.私が最近入手したサインで嬉しかったのは,Apple創業者「スティーブ・ウォズニアック」さんのメッセージ入り直筆サインです.「To Hiroaki Think Different. Woz」とサインして頂きました.Apple信者かつIT業界で生きている人間として,Wozさんからメッセージを頂けたことに特別な想いがこみ上げました.

ヒストリー

前回の記事でもご紹介しましたが,オートグラフには時間軸が存在しています.ローティーン向けファッション雑誌「nicola(ニコラ)」の読者モデルだった「新垣結衣ちゃん」と,ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の主演女優「新垣結衣さん」は別人です.この考え方は,写真家「篠山紀信」さんの「写真力」に影響を受けています.篠山紀信さんは,写真家として1人の人間の「生」と「死」に向き合ってます.私はオートグラフを集めることで,そのセレブリティの人生を追うことができると信じています.

マイルストーン(Milestone)

もう少し一般的な言い方をすると,「マイルストーン」という単語がしっくりときます.IT業界ではプロジェクトの管理で,「マイルストーン」という「区切り」や「途中目標」を設定することがあります.

新垣結衣さんの場合だと,

  1. 2001年〜2005年:ファッション誌「ニコラ」でのモデル
  2. 2004年,2006年頃:女優やグラビアアイドル
  3. 2006年:江崎グリコ「ポッキー」のCMで「ガッキー」が有名に
  4. 2007年:歌手デビュー
  5. 2007年:映画「恋空」
  6. 2008年:ドラマ「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」
  7. 2012年:ドラマ「リーガル・ハイ」
  8. 2016年:ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」
  9. 2017年:映画「ミックス。」

このようなターニングポイントがあり,「ガッキー」として愛されるようになったのは,2017年時点で10年ほど前からです.

オートグラフ(直筆サイン)コレクションの魅力

要所要所の直筆サインを集めていると,その人の変化が見てとれます.ハリー・ポッターシリーズのキャストは,幼少期から青春期を1つの作品で過ごしています.10年間もあれば,精神的な変化が大きく,それがサイン(筆跡)に表れています.

筆跡を追うことで,その人の生き様を感じることができると私は考えており,オートグラフ収集の楽しさです.このサイトのドメイン(名前)を「Autograph-Seeker」と決めたのも,サインを追うことが由来となっています.ただ買ってお終いではありません.そのサインが書かれた状況や精神状態などを研究してこそ「OTAKU」ですね.

あとがき

オートグラフの沼が深いからこそ,私は「Seeker」にしかなれないと悟りました.他のセレブリティにも,これだけのエネルギーを注げないからです.プロの写真家を目指さないのも同じ理由です.格好いい人や可愛い人だと,イメージが湧きますが,全ての人に興味を持てません.

様々なセレブリティのオートグラフを扱うプロのオートグラフディーラーさんたちは,常に最新の情報をチェックして,偽物を掴まないトレーニングをなさっています.出待ちや追っかけをしない以上,彼らを信じて購入するだけです.海外から輸入するようになって,ディーラーの大変さが分かりました.

携帯事業者間ではMVNO(格安SIM)が登場して「安さ」に注目されていますが,「安心」や「安全」を重視するとどうしてもコストがかかります.オークションサイトで格安で売られていた場合,その人がその金額で手放す理由を考えてみましょう.遺品整理などの特殊なケースを除いて,お金儲けがほとんどだと思います.日本の消費者に,本物のオートグラフを届けたいと思い,活動されているプロのオートグラフディーラーさんとは正反対です.偽サイン業者が市場から追い出されて,プロのオートグラフディーラーが高評価される時代になることを願います.

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